流鏑馬武田流における草鹿式の考察 ─武家の狩猟神事の考察として─
発表者 國學院大學大学院博士課程 針谷武文
流鏑馬等の弓馬術礼法に伝わる草鹿式について、武田流(鎌倉派)当主金子家に所蔵される古文書『草鹿起源書』(近
世期成立)を基本資料として「草鹿式」についての考察を行った。
草鹿は模造の鹿の的を矢で射る歩射の儀式で、鎌倉期には成立し、室町期に武士によって広く行われていたとされる。
「草鹿」については、従来、民俗事例より草で鹿を作ると捉えられてきた。しかし、本資料には、草鹿とは草深き所に
立つ鹿の姿であり、鹿の表を草で飾ると説明されている。
本研究では、小笠原流等、他の流鏑馬流派の草鹿関係の文献、室町期の御狩祭の草鹿史料、民俗における草で鹿を作る東栄町のシ
カウチ神事等について検討を行い、草鹿式の歴史上の実態を解明した。さらに、狩猟や神事としての草鹿と、武家儀礼の草鹿式とを総合
的に考究し、日本の伝統文化としての特質を考究する必要性を論じた。
クォック・グー音註が附せられたベトナムのザオ族(瑤族)の儀礼文書
発表者 神奈川大学非常勤講師 濱田武志
ザオ族(中国名:瑤(ヤオ)族)は、漢字の儀礼文書を豊富に持つ。ザオ族は伝統的に漢字の体系的知識を有しており、
あたかも日本語が漢音・呉音、訓読みを持つのと同様に、自らの言語「ミエン(勉)語」で、漢字を様々な音で読むことが出来る。
発表者らは、ベトナム語の文字「クォック・グー」で註音(ルビ振り)をするザオ族の儀礼文書を発見した。ザオ族は漢字の知識を徐々に失いつつあるが、このような文書の存在は、今日に於いてもなお漢字文書を用いた儀礼の価値が失われていないことを物語っている。そして、この文書は今後ザオ族の漢字音体系、ひいては漢字の知識の体系を調査・研究する上での有力な足掛かりとなることが期待される。