
なんとも異様な顔の鬼たちがこちらを向いている。シュロ皮の顔に大きなミカンの眼が輝き鼻や口には栗が並べられる。天を指す二本の角は、よく見ると人参である。そして全体が巨大な餅の上に置かれているのにも驚く。この飾りを「節供盛」といい、通称「鬼がしら」とも呼ばれている。解説書に「南洋土俗の鬼面に似た」と評されるのも頷ける。この鬼が現れるのはしかしながら三重県伊賀市なのである。三重県の西端、京都・滋賀と接する旧島ヶ原村にある「正月堂」。そこでおこなわれる正月の法要、「修正会(しゅしょうえ)」儀礼の中に登場する。毎年二月十一日に、これらを堂に運び入れる練り込みがあって、翌十二日にこの鬼たちの前で修正会儀礼が営まれるのである。修正会は歴史的にも「追儺(ついな)」と呼ばれる鬼追いの儀礼と結びついているため鬼がしらの登場となったのであろう。
この修正会行事は、奈良の東大寺(東大寺二月堂の修二会)から取り入れたという伝えがあるだけに、貴重な儀礼の数々が伝承されている。例えば「ほぞの木の驚覚(きょうかく)」と称して、本尊の周囲を巡る僧侶たちが、手にした牛王杖(ごおんじょう)で壁をばしばしと叩く。また、行法の途中で大導師が「乱声(らんじょう)」と叫ぶと、乱声方の人々が牛王杖をはじめ太鼓や銅鑼を激しく打ち鳴らすのである。そしてクライマックスは最後に登場する「水天・火天」であろう。水天は香水を、火天は燃え上がらんばかりの松明をかざし、堂内を巡る。それら一切が終わると、まもなくこの地でも春を迎えることになるのである。
(三重県伊賀市島ヶ原)
Text & Photo by Hiromichi Kubota