
10月も終わりだというのに、西表島(沖縄県八重山郡竹富町)の気温は28度。島全体を覆う亜熱帯の森が、湿った空気を吐き出し、いたる所で虫や鳥や両生類たちの鳴き声が聞こえる。そんな南の島に、新たな一年の始まりを告げる祭りが、この「シチ祭」なのである。シチとは「節」のこと。
シチと定められるのは旧暦八・九月の己亥(つちのとい)の日。今年は新暦十月二十六日であった。その夜、人々は家の柱につる草を巻きつけて、珊瑚の小石を家の中や門口へと撒く。この日はいわば大晦日で、家を清めて新たな年を迎えるのである。
その翌日がユークイ(世乞い)と呼ばれ、浜辺で様々な芸能が繰り広げられる賑やかな一日となる。この行事を伝えているのは島の北西部に位置する祖納(そない)と干立(ほしたて)という隣接した古い集落なのだが、両者では少しずつ内容も違っている。例えば祭りの中心となるのが、来訪神であるミロク(ここではミリクと呼ばれる)。祖納ではミロクは公民館から行列を組んで浜辺まで練り歩き、その後すべての芸能を観覧する。一方、干立のミロクは芸能の途中で一瞬だけ登場し、さらにオホホという道化が絡むのである。またそのお顔も、祖納のミロクは沖縄でよく見られるタイプのにこやかなものだが干立はきりっとした表情をしておられる。
しかし両村とも、ミロクと共に五穀豊穣のユー(幸い)を迎えることに変わりはない。縦に長い日本列島。その南の端では、こんな風にして新たな一年を迎えているのである。
(沖縄県 西表島)
Text & Photo by Hiromichi Kubota